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蒲酒造場の「白真弓」
宝永元(1704)年、徳川綱吉の時代に創業した蒲酒造場。ここで、飛騨を代表する酒造好適米「ひだほまれ」を使って醸造しているのが「白真弓(しらまゆみ)」です。ひだほまれは米粒が大きく、酒造りに必要なでんぷんが豊富に含まれた優秀な米ですが、全国の酒米の中でひだほまれが占める割合はわずか1%。ひだほまれの酒を口にできる機会はごく稀なのです。
地元・飛騨のみなさんは「白真弓」の普通酒を熱燗にして楽しんでいます。飛騨名物の赤かぶの漬物を炒めて卵とじにした漬物ステーキ、通称漬ステをアテに、「白真弓」をゴクリ。漬物の後味がすっと洗い流され、一度食べたらやみつきになる旨さです。蒲酒造場ではほかに、スパークリング日本酒「JANPAN」や季節限定の酒にもチャレンジ。既存のイメージにとらわれない新しい日本酒も生み出しています。
蒲酒造場の「白真弓」 + EIRYO
蒲酒造場では、13代目の蒲敦子さんを筆頭に少数精鋭で酒造りをしています。築300年以上の酒蔵は清掃が隅々まで行き届き、いつ伺っても蔵人のみなさんが言葉少なにきびきびと立ち働いている様子が見られます。蒲酒造場の「白真弓」は、作り手たちのそんな生真面目さがにじみ出ているような日本酒。地元に愛され、長く飲み続けられてきた飛騨の酒です。
「白真弓」の特徴は、食事中に飲むのに最高だということ。口に含むとまず豊かな香りが広がり、コクが感じられるのにキレがよく、後味がきれい。「凛としている」という言葉がしっくりきます。純米吟醸や純米大吟醸はほどよい存在感がありながら甘く重たくなりすぎず、料理に寄り添ってくれる。料理人にとっても、かけがえのない食中酒です。
私が「白真弓 純米吟醸」とマリアージュさせたい料理は、飛騨市が新たに売り出している「飛米牛(ひめぎゅう)」を使った冷しゃぶサラダです。飛米牛とは、飛騨牛の母牛のこと。一般に経産牛は肉質がよくないとされがちですが、そこは飛騨市が誇るブランド牛の母ですから、手をかければかならずおいしくなるはず。そこで飛騨の畜産農家は、経産牛に飛騨でつくられている酒の酒粕を与えることを思いつきました。牛の排泄物は肥料として酒米の田んぼへと返されます。肉牛と日本酒が循環型農業の輪でつながっているのです。
今回のサラダでは、飛米牛のスライスをさっと湯にくぐらせ、色とりどりの季節の野菜とともに盛り付けました。ドレッシングは、飛騨の名産・えごまをすりつぶしてポン酢やおろし生姜、練りごまを加えたものです。ずっしりとした肉のボリューム感、ドレッシングのコクを味わっていただいた後に、「白真弓 純米吟醸」ですっきりと洗い流す。その清涼感、幸福感はえもいわれません。そもそも「白真弓」が合わない料理はほとんどありませんが、やっぱり飛騨の食材と合わせたときに「白真弓」は最高の表情を見せてくれる気がします。
飛米牛の冷しゃぶサラダ 「白真弓 純米吟醸」
蒲敦子さん(右) と 工藤英良(左)
+EIRYO vol.3
2024年1月6日発行
ご協力 : 有限会社 蒲酒造場 様
発行人 : 工藤英良
写真 : 竹見脩吾
デザイン : 水口麟太郎
編集・文 : 市原淳子
発行 株式会社EIRYO
東京都大田区田園調布5-56-4
TEL.03-6822-2274
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